なぜ、ステークホルダー・エンゲージメントなのか?

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日頃より、ブラインドサッカー、ロービジョンフットサルを応援、ご支援いただき、ありがとうございます。JBFA専務理事 兼 事務局長の松崎英吾です。

私のことを長年知る方の中には、私が従前ブログを書いていたことをご存知の方もいるかもしれません。一般企業を辞め、JBFA専属で働き始めて間もなく書き始めましたので、2009年頃からではないかと記憶しています。残念なことに、当時のブログはサービスそのものの終了があり、執筆した記事はすべて消去されてしまいました。いま思うと、そこに記した当時の想いや視座は私の「原点」でもあり、重要だったようにも思います。

今回約10年ぶりにブログという形式で、月替わりで、理事長の塩嶋とともに、このステークホルダー・エンゲージメントのウェブサイトで、経営に関する「情報伝達」に務めます。

ではなぜ、今、私たちがあえて「情報伝達」の大きなテーマの下、ブログを書いていくのでしょうか。1つの理由として、JBFAの経営において、「ステークホルダー・エンゲージメント」を推進していく必要性が年々高まっていることがあります。それについてこれからご説明します。

2009年当時、ブログを読んだ方からいただいたコメントで覚えていることがあります。
「松崎くんの仕事って面倒だよね」
ある経営者からのフィードバックでした。

面倒、というのは「複雑」という意味と記憶しています。

商品Aを、関連会社①と②と製造し、顧客③に販売することを例に考えてみましょう。
例えば、この、①から③の3人の登場人物が、①から⑩までの10人に増えると、「複雑になった」と言えると思います。これが20まで登場人物が増えれば一層然りです。
ただし、この複雑化は、ステークホルダー(利害関係者)の「数が増えた」という意味であり、「面倒」に至るにはまだ要素が不足しているように思います。

「複雑」から「面倒」な状態に至るまでに、加えるべき視点の一つは、それら数が増えたステークホルダーの「利害が合わない」という点だと思います。①をたてれば、②と③の便益が損なわれる。②をたてると、①と④の便益が損なわれる−−等々。数が増え、多様化し、その利害が一つの方向性だけでは合わなくなる、それがスポーツビジネスの特徴でもあり、JBFAでも顕著にもつ「複雑な」要因だと思うのです。

一般的にも、スポーツはマルチステークホルダーで「大変」と言われますが、JBFAでは、これに「障がい」という概念も含まれるため、一層その複雑さを増しやすい要因があるのではないかと思っています。


そして、それらを踏まえてJBFAは経営判断をしています。

 

自分の視点と異なる視点を理解することは、思いのほか難しいものです。

 

一つの視点にたてば、「どうしてそのような判断になるのかわからない」状態になってしまう可能性があります。
そして、そのような、だれかにとって不納得な状態は、時と場合に応じて、だれにでも起こる可能性があります。言い換えると、特定の人だけが、いつも不利や不利益、我慢を強いられることはないと思います。

ステークホルダーエンゲージメントとは、そのように視点が異なり、利害が異なり、考え方が異なる関係者の皆さまと、経営や事業の視点とをすり合わせることで、エンゲージメント(愛着や納得感)を高めていく試みであり、努力だと思っています。

当然、秘密事項もあり、すべての情報を公開するという意味ではありませんが、この試みが、JBFAの取り組みへの納得度を高め、ブラインドサッカー・ロービジョンフットサルのスポーツとしての発展、そして、当協会のビジョンである「混ざり合う社会への貢献」につながると信じて推進してまいります。

 

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最後に、JBFAを取り巻く様々な視点をご説明するために、例として、「JBFAが主催する公式戦でどこまで各施策を実施するか」をケースにしてみました。ここでは、利害をわかりやすくするために、実例よりも端的な表現を使っています。いまはHまでで留めましたが、まだまだ異なる利害を登場させることが可能です。あえて言外にしている要素もありますし、あえてどのような属性かを明記せずにアルファベットで記号化しています。

各立場を想像しながらケーススタディしても、すべての利害を満たすことの難しさを感じていただけるのではないでしょうか。これらの利害の違いといかに向き合うのかが、JBFAの経営と自覚しています。

 

ケース:「JBFAが主催する公式戦でどこまで各施策を実施するか」(上記画像と同じ内容になります) ※利害をわかりやすくするために、大会に関しての考えと利害について、AからHまでの異なるパターンでまとめています。また、各ケースは実例よりも端的な表現を使っています。   パターンA:  大会に関しての考え   ・このスポーツをより広めていきたい ・多くの人が目にする機会を増やしたい  利害 ・全国大会などは関係者であってもいつも観戦できないため、ネットで中継したい     パターンB:   大会に関しての考え    ・視覚障がい者で、日本代表選手を目指しているわけではない ・年に数回でもブラインドサッカーやロービジョンフットサルの大会に参加したい ・大会の機会はJBFAが主催する大会以外ほとんどない ・生涯スポーツとして長く、ゆるく続けていきたい 利害 ・中継とかで自分を取り上げて欲しくない ・上手ではないし、知らない人からそんな様子を見られたくない ・中継では私を映さないで欲しいと伝えている    パターンC:   大会に関しての考え    ・このスポーツの魅力を、まだ知らない人たちに、わかりやすく、背景も含めて伝えていきたい 利害 ・中継の配信を技術的に担当するなら、選手の個人名や、視覚障がいの程度や状態、どの程度練習しているのか、出身地はどこかなど、選手を多面的に発信したい ・ベンチでどんな声を掛け合っているのか、監督からどんな指示が出ているのか、臨場感を出すために、ベンチにはマイクを設置して配信したい ・中継で肖像権を用い得ない選手がいると、カメラワークに制限があり、このスポーツの魅力を伝えられない。また、写り込みを避けるためには、カメラの台数を増やす必要があり、コストも増える   パターンD:   大会に関しての考え    ・スポーツである以上、アンチドーピングの取り組みは不可欠 利害 ・年に数回はアンチドーピングに関する講習会を受けるべきだし、TUE申請(禁止薬物等を治療に必要なことを理由に利用申請する仕組み)もしっかりやる体制を整える ・それらに対応できない、したくないなら、全国区の大会に出場せずに、エリート要素のない大会に参加すれば良い   パターンE:   大会に関しての考え    ・JBFAを長年企業として支援している。もっと多くの人が興味を持つスポーツに発展すると信じているし、そのような取り組みを応援していきたい ・企業として資金的なサポートも重要だと思っている。どのように使うのか、JBFAとしっかりディスカッションをし、お金を出して終わりにならないよう心がけている 利害 ・このスポーツを広げるためにもっと視聴者に魅力的な配信をしてほしい ・ネット中継をやるなら、他のスポーツにも先んじた事例にもなって欲しい。ただ配信するだけでなく、演出や選手の魅せ方を工夫してくれると思っている   パターンF:   大会に関しての考え    ・日本代表選手としてプレーしている ・週に5日は練習しているし、食事も栄養にこだわっている ・トップアスリートとして自覚も自負もある。 利害 ・国内の大会は平たく言うとレベルが低くて、世界で戦う練習にはならない。初心者も多いし、レベルも揃っていないので、トップ選手にとってはむしろ危険が高い大会。トップ選手ほど出なくてもいいのではないか ・大会スポンサーなどが日本代表選手の活躍を期待していることは知っているが、自分のことだけ考えるなら、より世界で戦うためにどう時間を使うかを考えたい   パターンG:   大会に関しての考え    ・地方で最近クラブチームを立ち上げた。   ・地域でこのスポーツを広げ、地域で視覚障がい者がもっと生活しやすくなるような取り組みにしていきたい  利害 ・地方は環境も充実していないし、地道に地域でイベントや体験会などを実施しながらまず知ってもらう必要がある ・大会は近くで開催される機会は少なく、常に遠征しないといけない ・個人負担だけでは負担が大きいので、イベントなどの小さな謝金もそれらの補填に大事になっている・大会を地 方でとJBFAに依頼しているが、関東のクラブから遠征費がかかるからやめて欲しいという意見がある。公平じゃないと感じている ・協会から全国大会で助成される交通費支援などは助かっている ・せっかく全国大会に出場するなら、少ない交通費で練習試合ができる近隣クラブではなくて、遠方のクラブチームと優先的に試合がしたい。組み合わせに地域性を配慮してほしい   パターンH:   大会に関しての考え   ・このスポーツの「競技スポーツらしい」ところをクラブとして大切にしている ・競技規則には100%準じるのがスポーツ ・ルールの中で高い競技性を求めていきたい   利害 ・全国大会であれば、組み合わせは合理的な方法でやるべきだ。クラブの実績、実力は考慮されるべきだが、地理的な条件が組み合わせを誘導されるのはおかしいと思う ・アンチドーピング活動や各種研修も相応の強度でやらなければこのスポーツの未来はない。取り組みが「過剰だ」とする意見には賛同できない