「フェアプレーについて考える」

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日本ブラインドサッカー協会(JBFA)理事長の塩嶋史郎です。

日頃より、ブラインドサッカー、ロービジョンフットサルならびに協会活動にご理解とご尽力をいただき、厚く御礼申し上げます。

 

今回のテーマは「フェアプレーについて考える」です。

“フェアプレー”は、一見わかりやすいようでその本質は奥が深いものです。それぞれが考える“フェアプレー”も、その思いはきっとそれぞれに相違することでしょう。

 

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フェアプレーって何だろう

スポーツマンシップとは、どう違うのでしょうか。

ではフェアプレーに対して、アンフェアプレーとは何を指すのでしょうか。

試合に臨む姿勢のことでしょうか。

ルールの範囲の中なら何をやってもいいのでしょうか。

技術や戦術にアンフェアプレーはあるのでしょうか。

フェアプレー賞は、選手個人、チーム、フェアプレーに貢献した人物や団体を対象に設けている賞ですが、どんな基準なのでしょうか。

そんな様々なことが、頭をよぎります。

かつての選手宣誓では、「スポーツマンシップに則り正々堂々闘うことを誓います。」が定番でした。

広辞苑によれば、フェアプレーとは

1.運動競技で、正々堂々たるふるまい

2.公明正大な行為・態度

とあります。

スポーツにはルールがあり、そのルールを守ることでアスリートが互いに競い合い、高め合うということです。国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピック憲章の中でフェアプレーを「スポーツの精神」と定めています。 日本スポーツ協会(JPSO)では、「フェアプレー宣言者を100万人に 」というムーブメントを展開しています。子どもにも、フェアプレー7か条のほかキャッチフレーズとして “あくしゅ、あいさつ、ありがとう”を掲げています。

また、日本サッカー協会(JFA)では、リスペクト宣言 をしています。RESPECTフラッグには、「大切に思うこと」とあります。リスペクトの本質を、常に全力を尽くしてプレーすること、そしてそれはフェアプレーの原点であるととらえています。この考えは、仲間、対戦相手、審判、指導者、用具、施設、保護者、大会関係者、サポーター、競技規則、サッカーというゲームの精神、それらサッカーを取り巻くあらゆる関係の中でとらえています。JFA は、U-12年代以下の試合において、プレイヤーのポジティブな行動 に対して提示するグリーンカードの積極的活用 を奨励しています。

ピッチ内だけではなく、ピッチ外におけるフェアプレーもあるのでしょうか。

ラグビーのノーサイドの精神がよく例えられます。対戦相手は、敵ではなく、競い合い楽しむ大切な仲間です。ピッチ外といえば、プレー以前の問題として、ドーピング、八百長、体罰、暴力行為、セクハラ、パワハラ、違法賭博、反社などが挙げられます。もっと身近なマナーに置き換えられるときもあります。

フェアプレーが 「公平性」 を表現しているのに対して、スポーツマンシップは「スポーツに参加する行為の姿勢」 を表現しています。「競技相手に対する敬意」 や 「競技における勝敗に関わらず毅然とした態度」も含まれています。

フェアプレーとは、スポーツマンシップに則った、試合中における素晴らしい振る舞いのこと、という言い方もあります。具体的には、ルールをきちんと守る、相手チームのメンバーやレフェリーに対して敬意を払う、自分がケガをしたり他の選手にケガをさせたりしないように安全に気を配るなど、自分も他の選手も気持ち良く競技ができるように心がけることが大切になります。

ケガといえば、柔道のエジプトのラシュワン選手を思い出します。1984年のロサンゼルスオリンピック男子無差別級の決勝で、負傷していた山下泰裕選手の右足を攻めなかったことが話題になりました。この年の国際フェアプレー賞を受賞しました。一方、弱点を突くのが本来のあるべき作戦ではないかとする論調もありました。このトピックスは、フェアプレーのあり方についてよく引き合いに出されます。

フェアプレーとスポーツマンシップとは重なり合っていることがよくわかりますね。

 

競技の技術、試合の戦術におけるフェアプレーって何だろう

こんな逸話があります。

その昔、さらにその大昔、野球でピッチャーがストレートではなく初めてカーブを投げた時に、直球ではなく曲球を投げるのは邪(よこしま)だと議論になったというエピソードがあったといいます。今となっては笑い話です。変化球も増え、球種は31種類あるといわれています。どのスポーツでも、技術は革新し、攻撃や守備のパターンも多彩になり、新しい戦術やトリックプレーも生まれています。

バスケットボールの解説者が、今のプレーは「積極的ファール」「良いファール」「止むを得ないファール」と“正しい反則”と言わんばかりの時もあります。野球でもまれに「隠し球」があったりします。牽制球でもボークに取られないすれすれもあります。

では、ルールの範囲の中なら何をやってもいいのでしょうか。技術や戦術においてアンフェアプレーというのはあるのでしょうか。

私たちが観る機会の多いサッカーを例に考えてみましょう。

試合運びが上手いとか、試合巧者という言われ方もあります。サッカーに詳しい方は「マリーシア」という言葉を使ったり聞いたりすることがあると思います。マリーシアとはポルトガル語で「ずるさ」「狡猾さ」を意味します。「したたかさ」という言い方をする場合もあります。審判へのアピールのうまさや、PKを獲得するためにペナルティーエリア内で上手に倒れたり、ゲームの駆け引きを行なうなど様々な事象や光景を見ることがあります。

「マリーシア」には“機転が利く”とか、 “知性”という意味があり、本来は「駆け引きを行いゲームを優位に運ぶ」行為を指しています。状況を的確に判断し、素早くその場に応じた適切なプレーをするという意味です。これまでも選手の未熟さや経験不足を指して、「マリーシアが足りない」という表現が使われたりしています。一方、ずる賢さのずるいだけの卑怯なプレーを指すときもあるようです。レフェリーに見えないところで故意に相手のシャツを引っ張ったり、肘打ちしたりする行為など様々です。

国によって、その文化やお国柄でその解釈は異なっているようにも感じます。大げさに倒れてファールをもらおうとした場合、シミュレーションとして、反則を取られるケースもあります。英語でも「simulation」は「フリ、見せかけ」「演技」などの意味を持ちます。PKかPKでないかの判定などVAR(ビデオアシスタントレフェリー)が導入されている大会や試合もあります。

ルールを守らないのは論外としても、ある意味「ルールの裏をかく」といった反スポーツ的な行為はそもそも存在するのでしょうか。

フリーキックの場面で、相手チームの陣形が整わないうちに意表を突いて素早くボールを蹴り出す、こともあります。試合終盤に時間稼ぎを行なうのは、ある意味で当たり前になっています。1993年カタールのドーハで行われた日本代表対イラク代表戦における結末(ドーハの悲劇)が想起されます。戦術として、その重要性が認識されました。試合終盤に相手陣内のタッチライン際でボールをキープして時間を稼ぐ、という手法は一般的になりました。

ときには相手チームに対する明らかに露骨な時間稼ぎ、遅延プレーも出てきます。時間稼ぎといえば、かつてはピッチからスタンドなどの遠方へと蹴り出すことが有効な手法とされていたことがありましたが、マルチボールシステムが導入されてからは、意味をなさないものになりました。

グループリーグ突破、ベスト8、メダル獲得などを目指す場合、勝利至上主義が最優先になることが あります。大会の場合、予選リーグで勝ち抜き決勝トーナメントをめざす場合、勝ち点、得失点、総得点が重要になります。また、グループリーグ突破後の決勝トーナメントの対戦相手を考えた時のゲームプランなども取り沙汰されます。ゲームプランのチームへの浸透や徹底度合い、引き分け狙いの試合があったり、トライアングルのパス回し、点を取りに行くのか守りに徹するのかなどの戦術もあり得ます。

賛否両論、いつも議論を賑わすところですね。勝敗のみを考えたとき、エンターテイメントとしてスポーツを見たとき、観客不在ではないかという論点で語られる時もあります。

時間稼ぎではなくても、他の競技では必要以上の時間の浪費ではないかという見方があります。例えば、野球ではピッチャーとバッターの駆け引きや間合いも醍醐味の一つではあるものの試合時間の短縮が課題でもありました。MLBでは*ピッチクロックが採用されました。高校野球でも試合中のタイムや伝令の回数、プロ野球もマウンドに行ける回数が制限されています。競技が魅力的であり続けるためには、試合時間の長さとの戦いでもあるのです。古くからコールドゲーム、近年ではタイブレーク方式、申告敬遠なども採用されています。

ブラインドサッカーでも、2022年より20分ハーフから15分ハーフに変更されてきています。また少し逸れますが、2017年には、ロースコアを解消しゴールシーンが増加するため、ゴール(ポスト/クロスバー)を大きくしています。このように、競技のルールも様々な理由で変更されるのです。

 

JBFAのフェアプレーを考える前に

先に触れたリスペクト宣言ですが、JFAの宣言・指針の中で、リスペクトはフェアプレーの原点、ピッチ上の人、それを支え、取り巻く全ての人や物を互いに「大切に思うこと」としています。

「フェアプレー」とは

1. ルールを正確に理解し、守る

2. ルールの精神:安全・公平・喜び

3. レフェリーに敬意を払う

4. 相手に敬意を払う

と定義しています。

“審判は両チームがルールに従って公平に競技ができるために頼んだ人である。人間である以上ミスもするだろうが、最終判断を任せた人なのだから、審判を信頼し、その判断を尊重しなければならない。”と表現しています。

2017年には、JFA主催の「リスペクトF.C.JAPANシンポジウム」 が開催され、「日本障がい者サッカー連盟(JIFF)とのリスペクト・フェアプレー共同宣言」が行われ、障がい者サッカー7団体に対してリスペクトフラッグが授与されました。JBFAでは公式戦において必ず試合会場に「リスペクトフラッグ」を掲げ、フェアプレーの啓発を行っています。リスペクトの本質を、常に全力を尽くしてプレーすること、そしてそれはフェアプレーの原点であるととらえています。

障がい者スポーツには、様々な種類の競技があります。パラリンピック種目だけでも一昨年の東京パラリンピックでは、22競技、539種目が行われました。パラ競技のクラス分けの基準変更や見直しは、有利不利を生みます。直前のクラス変更で困惑する選手もいます。 パラ競技の公平性が議論されるところです。 視覚障がい者の競技では、*B1・B2・B3に分類されます。水泳、陸上はじめ、柔道、ゴールボール、視覚障がい者サッカーも同様です。国際大会では、開会前にメディカルチェックがありクラス分けが行われます。

ブラインドサッカー(全盲B1)、ロービジョンフットサル(弱視B2/B3)のカテゴリーがあります。 ご存知のように、ブラインドサッカーは、アイマスクを着用し、音の出るボールを使い、ピッチにはサイドフェンスが設置されています。コーチ、相手チームのゴール裏にいるガイド、キーパーの声を出せる範囲にも制約がありますし、選手はボールを持った相手に向かって行く時に「ボイ!」と声を出さなければなりません。

ルールの詳細は他に譲るとして、競技の特異性が顕著です。“フェアプレー”を考えるとき、それぞれの障がい者スポーツが持つ特有の競技ルール、規則ができた背景やその精神(競技設計と言ってもいいです)を熟知することが極めて大事な要素です。

国内大会のローカルルールでは、競技の普及のため晴眼者の選手も一定の要件を満たせば出場できることになっています。男女も同じピッチに立ちます。試合や出場の機会創出にも取り組んでいます。見えない人、見にくい人、見える人がピッチの上で一緒にプレーする障がい者スポーツです。視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う、インクルーシブな社会が反映された競技と言えます。

平等とは、すべての人を偏ることなく同じように扱うことですが、平等を無理に推し進めると、平等という名の不平等を生ずる場合があります。公平とは、属性に応じた一人ひとりに必要な合理的配慮ということになります。

「フェアプレーとは?」と問題の投げかけばかりしているブログに聞こえるかもしれませんが、フェアプレー雑感と捉えていただけるとありがたいです。選手やチームだけではなくサポーター、ひいては競技に携わるすべての人が、考えていくべきものでしょう。“フェアプレー”を様々な角度から理解し、関心を深めていくことが大事だと思っています。

フェアプレーは、スポーツだけではなくビジネス、日常生活でも大切です。

私たちブラサカファミリーが、「フェアプレーについて考える」きっかけになればと強く願っています。

 

*B1・B2・B3の定義

B1:全盲から光覚(光を感じられる)まで

B2:矯正後の診断で視力0.03まで、ないし、視野5度まで

B3:矯正後の診断で、視力0.1まで、ないし、視野20度まで

国際大会は開幕前に専門医による視力検査があり、B1クラスと判断された人しか出場できない。B1クラスに該当するのは、視力がLogMar2.60(0.0025)より低いと判断された選手。

*ピッチクロック

ピッチャーは、ボールを受けてからランナーがいない場合は15秒以内、ランナーがいる場合は20秒以内に投球モーションに入らなければならない。キャッチャーも残り9秒までにキャッチャーボックスに入り、ポジションに着くこと、バッターは残り8秒までに両足をバッターボックスの中に入れて構えをとることなど細目が決められている。