強化費の仕組みから考える、

JBFAの経営課題

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強化費の種類

日頃より、ブラインドサッカー、ロービジョンフットサルを応援、ご支援いただき、ありがとうございます。JBFA専務理事の松崎英吾です。

2023年8月14日から27日まで、イギリスでIBSA World Games(以下、WG)が開催されていました。

WGは、視覚障がい者スポーツの総合的な大会で、パラリンピック種目では、ブラインドサッカーのみならず、ゴールボールや柔道、パラリンピック種目以外では、ボーリングやチェスなどが開催されていました。なかには、クリケットのように英国を中心としたコモンウェルスで人気のスポーツや、ショーダウンなど日本では耳慣れないスポーツも含まれています。

そのWGのなかで、今回、ブラインドサッカー男子、女子、そしてロービジョンフットサルの世界選手権が開催されました。これまでは、WGと各種目の世界選手権は区別されて開催されることが多かったのですが、長引いた新型コロナウイルスの影響もあり、国際大会のカレンダーが変更になってきた影響があります。

JBFAが管轄する3つのカテゴリーの結果は、JBFA公式ウェブサイトのページに譲りますが、今回、WG派遣にあたって、クラウドファンディングを実施しました。

高騰している航空旅費や、インフラでエントリー費なども高止まりしているほか、円安も追い打って56名もの選手団を派遣する上では多額のお金が必要でした。おかげさまで9,985,000円もの寄付にご協力をいただき、お礼を申し上げます。ありがとうございました。

そのクラウドファンディングの使途ですが、クラウドファンディングの仕組みを提供する会社への手数料やリターン品の経費を除く金額は、「強化」に充てさせていただきます。世界選手権への遠征にまつわる費用補填はもちろん、それぞれのカテゴリーの今後の活動経費に充てる予定です。

私たちのような中央競技団体(以下、NFとします。National Federationの略で、スポーツ界では共通言語となっています)は、こういった強化にまつわる予算を「強化費」と括って呼称しがちです。ただ、私の理解では、この「強化費」という言葉、概念に一律の定義はなく、複数の意味があると思っています。ここでは、2つに整理すると;

 

①財源における狭義・広義

・狭義:日本スポーツ振興センター(以下、JSC)や日本パラリンピック委員会(以下、JPC)のような公的組織に助成される強化にまつわる予算のみを指す

・広義:上記、JSC、JPCの予算のみならず、NFが独自に強化に充てられるスポンサーなどの調達予算を含める

 

②活動対象における狭義・広義

・狭義:財源における狭義の強化費が充てられる活動のみを指す。多くの場合、代表やそれに準じるカテゴリーのみが対象となる。

・広義(a):狭義の活動対象に加え、代表につながる育成(あくまでエリートの育成)や、団体によっては強化育成に結びつくための普及的活動を含む場合。

・広義(b):JPCなどの団体に登録できていないカテゴリーを含める場合(例:JBFAでは、昨年度までブラインドサッカー女子日本代表やロービジョンフットサル日本代表は日本パラスポーツ協会の登録対象外だったため、狭義では対象ではなかったと考えられます)

 

一般的には、競技を強くしていくための費用が強化費と認識されるところですので、財源・活動対象ともに「広義」の理解が受け止められていると思います。

他方、スポーツ業界内では、いずれも「狭義」を指すことが多いように見受けられます。

 

狭義の強化費の仕組み

この狭義の強化費は、どのようにNFに分配されるのでしょうか?

(最近は詳細の数式の資料が関連団体から配布されなくなっているので、一般公開資料ではないと思料し、おおよその仕組みについて説明します。)

大枠の方針は「成果主義」でまとめられます。

成果主義とは、狭義の強化費の対象となる、主に日本代表が、「指定された国際大会」でどれくらいの成績を収めたか、その結果に応じてランクがつき、配分される強化費のおおよその金額が決まるというものです。

指定された国際大会とは、ブラインドサッカー男子日本代表の場合はJPCが「パラリンピック」と定めています。この8月に開催された世界選手権は、ブラインドサッカーでは予選、本戦を含めて最も多くの国が参加する最大規模の国際大会ですが、その競技成績が反映されることはありません。

ランクが決まる過程においては、指定大会の競技成績以外にもいくつか要因があります。JPSAの指定する資格保持者が関わっている人数や、コンプライアンスへの対策度合い、受動喫煙防止への取り組みなども点数に影響します。

とはいえ、大枠は競技成績の成果ですので、パラリンピックの結果がランクを決めるとして過言ではありません。パラリンピックは4年に一度ですので、この評価ランクが変更され得るのは、実質的には4年に一度ということになります。

また、ランクが同じでも、毎年配分される原資の予算が異なります。そのため、NFに分配される金額も、年ごとに「大きく」ことなることになります。

大きくと表現したのは、本当に大きく異なるからです(数%といった変化ではなく、50%を超えた変化があります)。

経営的な問題は、それらの予算が、4月年度のはじまるギリギリまでわからないことにあります。

 

安定した経営への視点

このランクですが、SからEまでの6段階のランクがつきます。ブラインドサッカー男子日本代表は、東京パラリンピックまでパラリンピック出場経験がありませんでした。そのためランクは低く、長年EかDランクにいました。

代表を強くしていくためにはこの狭義の強化費を頼ることができないのが前提条件でした。必然、広義の強化費として、自己調達する道のりを経ずして、代表を強化していくことは難しかったことになります。

逆説的ですが、世界で上位に入るためにはお金が必要。でも狭義の強化費は、勝つことなしに配分されない、というロジックをどう乗り越えていくかがまさに経営課題だったと言えます。(自己資金の調達については別の機会にお話ししたいと思います)

しかし、JBFAも東京パラリンピックにむけた恩恵を多く受けました。

基本的なランクは変わらなかったものの、東京パラリンピックで上位に食い込む可能性がある種目は「重点強化」として、基本ランクとは別の予算が手当されました。ブラインドサッカー男子日本代表は決して上位の「重点強化」対象ではありませんでしたが、それでも成果主義ではなく、ある意味、投資対象としての種目になり、2018年度頃から狭義の強化費が毎年引き上がっていくことになり、2022年度(延期されたパラリンピックがあった年度)でまさにピークを迎えます。

そして、東京パラリンピックでは、5位入賞という成績。メダルには及ばなかったものの、基本的なランクが大きく上がる条件に届いたとも言え、結果としても2023年4月度でのランクはステップアップをしました。

ステイクホルダーの皆さまからすると、それでは23年度以降の4年間(このサイクルのみ、新型コロナウイルスの影響で3年サイクルとなりますが)は安泰ですね、と思うことでしょう。また、私自身、そこに油断があったと言えます。

しかし、実態は、先述の通り「原資」に大きな変更があり、大幅な狭義の強化費の減収となりました。

強化の取り組みは、合宿や海外遠征の回数などを調整してある程度の予算調整も可能です。

とはいえ、強化拠点の維持費や一部コーチングスタッフ等の人件費、データ管理や各種テクノロジーの利用などの契約など、固定費化された費用が多くあります。唐突にセーブできる予算には限界があるとも言えるのです。

2018年度より前のJBFAであれば、固定費的なる費用を狭義の強化費がカバーしている割合は実に少なかったため(それが活動の限界でもあったわけですが)、急な減少があってもおそらく対応余力が高かったと思います。しかし、いまは狭義の強化費がカバーする固定費的なる費用が多く、また世界での競争力を維持していけるだけの練習量や海外遠征などを考えても、そうそうに取り組み強度を落とすことは難しいのです。

自己反省をしますが、私自身、東京パラリンピックに向けて、狭義のみならず、広義の強化費の増加はある種の「筋肉増強剤であるから気をつけるべき」と発信してきました。ロンドンパラリンピックの後のNFの事情をみても、ホスト国開催後の大きな予算減は予想しておくべきだ、と。そのうえで、JBFAは財源の多様化に長年取り組んできており、パートナーシップやスポンサーシップによる協賛金収入や、企業研修や受託事業による事業収入などと、財源にバランスがある組織だと思っています。

それにもかかわらず、率直に見誤りました。ランクが上がることと、ホスト国開催の反動を天秤にかければ、乗り越えられると考えたのです。

クラウドファンディングのウェブサイトでも明かしていますが、いま、特に以下の3つの活動領域で大きなブレーキがかかっています。

 

・広義の強化といえる育成の活動

(ナショナルトレセン、ナショナルユーストレセン、指導者の育成等の活動)

・ブラインドサッカー男子日本代表の減収を補填するために他の活動も制限が発生

(ブラインドサッカー女子日本代表やロービジョンフットサル日本代表の活動が大きく影響)

そしてJBFAのその他の活動にも、一定の影響がでている現状となります。

 

その意味で、今回のクラウドファンディングへのご協力は、それらの対応に充てられる、たいへんありがたいものでした。あらためて、感謝を申し上げます。

 

今後のより安定した経営には、

・JBFAの強みである、企業とのパートナー契約の伸長(これはある種の大口契約と言えます)

・JBFAの弱みである、企業との小口契約への取り組み強化

・今回クラウドファンディングでお世話になったように、個人の皆さまからの継続寄付、単発での寄付の取り組み強化

が求められます。

 

今回、強化費というキーワードから、JBFAの現状についても説明いたしました。

財源の多様化はNF経営において重要な視点と思っていますが、そのための組織構造やコスト構造などを踏まえて、より良い体制にしていく必要をいま感じています。

 

*   *   *

最後にここまでを踏まえてご案内です。

もし、今回クラウドファンディングに参加されてないものの、我々の経営的背景を知り、ご協力いただける方は、下記リンクよりご協力をお願いします。継続寄付、単発での寄付が選べます。

また、法人でパートナーや小口協賛にご関心をいただけましたら、遠慮なく当協会まで電話かメール(info@b-soccer.jp)でお問い合わせください。話を聞いてみたい、という関心程度でも歓迎です。その際、本ブログを読んだことをお伝えください。

チームビルディングやコミュニケーションの研修でご協力いただけそうな方は、以下のウェブサイトをご参照ください。

より多くの皆様と共にこれからのJBFAを作っていきたいと思っております。引き続きよろしくお願いいたします。